科学と人間生活 生物・微生物分野 合格のレシピ
微生物とその利用
微生物とは、顕微鏡を使うことで初めてその存在が分かる生物のこと。ヒトの体内や皮膚、空気中や土中など、さまざまなところに存在する。微生物は、私たちの健康や食生活を支えている一方で、病原性微生物もいる。また、微生物は生態系の中で重要な役割を担っている。
微生物の発見
微生物を発見したのはレーウェンフック。1674年、顕微鏡を自分でつくって観察し、自然界には極めて微小な生物が存在することがを明らかにした。その後、顕微鏡の技術の進歩とともに、より小さな微生物も発見され、20世紀には電子顕微鏡によって、ウイルスなども発見されるようになった。
古くから、人々は、生物は親がいなくても自然に発生するという「自然発生説」を信じていた。しかし、パスツールは、S字状の首を持つ白鳥の首フラスコの中に肉汁を入れ、空気中の微生物が入らなければ、何年にもわたって肉汁の腐敗は起こらないことを確認し、微生物は自然に発生するものではないことを証明した。
※微生物はヒトの皮膚や体の中に無数に存在し、重要な働きをしている。口の中にいる微生物は500種類以上、皮膚にいる微生物は200種類以上、お腹の中にいる微生物は1000種類以上にもなるといわれている。ヒトの体にいる微生物は、その数や種類のバランスがほど良く保たれることで、私たちの健康を支えている。
さまざまな微生物
細胞には、核が膜(核膜)に包まれている「真核細胞」と、膜に包まれていない「原核細胞」の2つのタイプがある。真核細胞からつくられている生物を「真核生物」とよび、原核細胞からつくられている生物を「原核生物」とよぶ。
- 原生生物(真核生物)
- 「ゾウリムシ」、「アメーバ」などの「原生動物」や「ケイ藻」などの「藻類」、など。
- 菌類(真核生物)
- 「アオカビ」や「酵母菌」、「シイタケ」など。 光合成は行わず、養分(有機物)を体の表面から取り入れている。マツタケやシイタケなどの食用部分は、菌糸とよばれる糸状の構造が多数集合し、目に見える大きさになったもの。
- 細菌(原核生物)
- 食品に利用される「乳酸菌」、「枯草菌(納豆菌)」。また、病原体となる細菌「結核菌」、「コレラ菌」、「ピロリ菌」、ヒトの体の中にすむ「大腸菌」などがある。さらに自然界には、光合成を行う「シアノバクテリア」や、空気中の窒素を利用する「窒素固定細菌」などが存在している。ダイズなどのマメ科植物では、窒素固定細菌の一種の「根粒菌」が共生することで、大気中の窒素を利用することができる。
- ウイルス
- ウイルスは、ほかの微生物とは異なり、細胞構造をもたないため「生物と無生物の中間的存在」とされている。ウイルスは殻と遺伝物質からできており、他の生物の細胞に入り込まないと増殖できない。また、他の微生物と比べて、非常に小さいため、電子顕微鏡でないと確認できない。
※微生物の大きさを比較すると「原生生物 > 菌類 > 細菌類 > ウイルス」となる。
① アオカビ ② ゾウリムシ ③ 大腸菌 ④ 酵母菌正解=③
病原性微生物
微生物の中には人の体内に侵入し、病気を引き起こす「病原性微生物」がいる。これまで人類は、スペイン風邪やペストといった微生物の起こす感染症により多くの人たちの命が奪われ、甚大な被害を受けてきた。
突然の高熱など風邪のような症状を引き起こすインフルエンザウイルスやデングウィルス、冬期に胃腸炎を引き起こすノロウイルス。現在も人類は治療法の開発など医学を進歩させることによって、感染症と闘っている。
※世界にはたくさんの病原性微生物がいる。そして、たった一種類の微生物が、多くの人の命を奪った歴史もある。14世紀、ヨーロッパではペストが大流行した。当時は微生物の存在が知られていなかったため、恐ろしい悪魔の仕業だと信じられていた。また、現在は根絶されている天然痘は、15世紀にアメリカを中心に大流行した。わずか50年の間に7000万人が犠牲になったといわれている。そして「スペイン風邪」ともいわれているインフルエンザは、1918年に世界中で大流行し、2000万人以上の人の命が奪われた。
感染症対策に関する医療の歴史
- 抗生物質
- 1929 年にイギリスのフレミングが「アオカビ」から、感染症治療に劇的な効果がある「ペニシリン」を発見した。1944 年にアメリカのワクスマンは、土の中の放線菌から「ストレプトマイシン」が作り出されることを発見した。ペニシリンやストレプトマイシンは「抗生物質」と呼ばれ、病原菌などの発育・繁殖をおさえるはたらきがあるため、医薬品として用いられるようになった。特にストレプトマイシンは、それまで不治の病とされていた「結核」の画期的な治療薬となった。
- 予防接種とワクチン
- 病原性微生物のはたらきを弱めたものや、弱毒化した毒素をからだに接種しておくことで、病気に感染することを防ぐ「予防接種」が行われ、感染した場合に症状を和らげることができるようになった。このとき接種するものを「ワクチン」という。はしかの予防接種などがその例である。
- 遺伝子組換え
- 近年、遺伝子の研究が進むことにより、微生物の細胞に他の細胞から取り出した遺伝子を導入して、有用な物質を合成させることができるようになってきた。このように、ある生物の遺伝子に他の遺伝子を組み込むことを「遺伝子組換え」という。この遺伝子組換えの技術を利用して、医薬品などの有用物質を微生物に作らせることができる。例えば、大腸菌を利用して、ヒトのインスリンを多量に合成する技術が実用化されている。
※インスリンは、すい臓から体内に分泌され、血糖値を下げるため、糖尿病の治療に使われている。
発酵食品
人々は昔から微生物の存在を知り、長い間の経験を通して、微生物を上手に利用してきた。その代表的なものが、長期間保存でき、風味や味を豊かにする「発酵食品」である。「発酵」というのは、微生物の力で、人間にとって有用な物質を生産する手段のこと。発酵させるために利用する微生物は、主に3種類。酵母菌、カビ、細菌類である。
日本酒、味噌、しょうゆといった日本の伝統的な発酵食品をつくるには、「コウジカビ」が欠かせない。
酵母菌 | カビ | 細菌 | |
---|---|---|---|
日本酒 | ○ | ○ | △ |
ビール | ○ | ||
ワイン | ○ | ||
パン | ○ | ||
味噌 | ○ | ○ | ○ |
しょうゆ | ○ | ○ | ○ |
漬け物 | ○ | ○ | |
ヨーグルト | ○ | ||
チーズ | △ | ○ | |
納豆 | ○ | ||
かつお節 | ○ |
① 味 噌 ② しょうゆ ③ かつお節 ④ 日本酒正解=③
アルコール発酵
酵母菌などの微生物には、「糖をエタノールと二酸化炭素に分解する」はたらきがある。このような発酵をアルコール発酵という。