通信制高校とは
通信制高校とは、高校の教育課程のひとつである「通信制課程」が置かれている高校のことです。昭和23年(1948年)の学校教育法の制定時に設けられた制度で、「より多くの人に教育を受ける機会を」という高い理想のもとに、全日制・定時制の高校に通学することができない青少年に対して、通信の方法により高校教育を受ける機会を与える
ために設けられました。ここに82校の通信制高校が全国に誕生しました。当時は勤労青年のための高校という意味合いが色濃くありましたが、時代とともにその役割が変化し、最近では、全日制課程からの転入学・編入学する生徒や何らかの事情で過去に高校で教育を受けることができなかった方など、さまざまな入学動機や学習経歴を持つ方が入学しています。また、学習方法もさまざまで、通信制高校が制度化された当時はラジオ放送が中心でしたが、今ではテレビやインターネットなどのメディアを活用した通信の方法が導入されています。
通信制高校へ入学する生徒
通信制高校は、中学卒業後すぐに就職しなければならないなど、経済的な理由で、全日制や定時制に通うことのできない青少年のために通信による教育(※)を受ける機会を与える目的で制定されました。今でもそのような方も入学していますが、時代的なニーズに応え、中学を卒業して間もない10代の生徒から、社会経験のある年配の方まで、さまざまな動機や学習経歴を持つ方が入学しています。入学する生徒が多様になり、新しい人間関係も生まれやすい環境になっています。
※通信による教育とは、ラジオ、テレビ放送、その他インターネットなどの多様なメディアを利用して行う学習を取り入れた教育のこと。
- 中学校でいじめを受けて不登校となったり、ひきこもりであったため、ほとんど通うことができなかった生徒(不登校経験者)
- 友人関係の悩みや校風が合わないなどの理由で全日制課程から進路変更・中途退学した生徒(転入学・編入学)
- 仕事や経済的事情、希望する学校に入学できなかったなど、なんらかの事情により、全日制や定時制高校に通学することができない方。過去に高校に進学する機会がなかった社会人の方。
- 中学校卒業後に就職をしたものの、いつか高校で学びたいという思いを抱え続けていた生徒。社会に出てから高校卒業資格の必要性を感じた生徒。
- 病気の療養のために全日制高校等への通学が困難な生徒
- 技能教育を受けながら高校卒業を目指すことを希望する生徒
- スポーツや芸能、音楽、美術などの文化活動に情熱を注ぐ生徒。将来に大きな夢を持ち、それぞれの才能を磨きながら、高校卒業を目指す方。自分のやりたいことがあり、学校生活以外のことに多くの時間を注ぎたい方など。
※芸能人では、嵐の二宮和也さんやKinKi Kidsの堂本光一さん、スポーツでは、サッカー選人の香川真司さんなどが有名です。
主に勤労青年に対し、高校教育を受ける機会を提供するために制度化された通信制高校でしたが、上記のように困難や課題を抱える生徒や動機や目標が違うさまざまな境遇にある生徒たちが入学しています。時代の変遷に伴い、学ぶ人のさまざまな状況に対応できる柔軟な学習システム・カリキュラムのもとで運営されており、通信制高校の制度発足当初とは、大きく異なった様相を呈しています。
私は通信での出会いから、前を向くスタートラインは、いくつもあることを学びました。
いろいろな境遇の人たち。その学ぶ姿から、なぜ勉強をするのかを考えるようになりました。…自分自身を高め、自分の考え方や、視野を広げるために学んでいくんだ。そうと気づけたとき、私の心は晴れていきました。
全日制、通信制、定時制高校の違い
高校を卒業するまでの「コース(学び方のスタイル・高校卒業までの道のり)」を「教育課程」といいます。教育課程には、「全日制」「定時制」「通信制」の3つのタイプがあります。それぞれ、学ぶ場所(自宅、学校、学習センターなど)や学ぶ時間帯(昼間、夜間)などが異なり、個人のスタイルに合わせて選べます。コースは違っても、目標(ゴール)はみな同じ「高校卒業」です。
全日制は、全国で最も多い通常の教育課程です。授業時間は1日6時間程度の授業時間があり、卒業までは通常3年間です。定時制高校は、主に夜間に授業を行う課程で、授業時間は1日4時間程度です。卒業までは、通常3年~4年間程度です。通信制高校は、通信により教育を行う課程で、スクーリング(面接授業)とレポート(添削指導)によって学習を進めます。スクーリング時間やレポートの提出数は各科目の標準単位数や学校のカリキュラムによりさまざまです。学び方のスタイルは違いますが、どの課程もゴールは同じ「高校卒業」です。
学習の進め方
通信制高校での学習は、科目ごとに、 ①レポート提出 → ②スクーリングに参加 → ③単位認定試験の受験、が基本的な流れになります。
- レポート(報告課題・添削指導)年間に50~60通程度を提出します。基本的には自学自習で作成します。
- スクーリング(面接授業・面接指導)年に20~25日程度です。ただし、ネットの学習システム等を利用すれば、最大6割はスクーリングを受けた時間として換算することができます。また、多くの通信制高校では、集中スクーリングも実施しており、年に1回や月に数回など、自分の生活スタイルに合うスクーリングを選択して受けることもできます。
- 単位認定試験期末テストに相当します。科目ごとに合格点(通常は30点程度)以上であれば単位が認定され、その科目を修得したことになります。通信制高校では、科目ごとに単位を修得していき、卒業までに74単位以上を修得する必要があります。
科目 (標準単位数) | レポート (通) | スクーリング (時間) |
---|---|---|
国語総合(4) | 12 | 4 |
国語表現(3) | 9 | 3 |
世界史A(2) | 6 | 2 |
日本史A(2) | 6 | 2 |
地理A(2) | 6 | 2 |
現代社会(2) | 6 | 2 |
数学I(3) | 9 | 3 |
数学A(2) | 6 | 2 |
科学と人間生活(2) | 6 | 8 |
物理基礎(2) | 6 | 8 |
化学基礎(2) | 6 | 8 |
生物基礎(2) | 6 | 8 |
地学基礎(2) | 6 | 8 |
音楽I(2) | 6 | 8 |
美術I(2) | 6 | 8 |
工芸I(2) | 6 | 8 |
書道I(2) | 6 | 8 |
英語基礎(2) | 6 | 8 |
英語I(3) | 9 | 12 |
英語会話(2) | 6 | 8 |
家庭基礎(2) | 4 | 4 |
情報の科学(2) | 4 | 4 |
総合的な学習の時間(3) | 3 | 6 |
単位制と学年制の違い
単位とは、簡単にいうと「科目ごとの学習量のこと」のことです。単位数が多い科目ほど学習量が多くなるので、通信制高校では、レポート提出数やスクーリングの時間数が多くなります。また、学校によって、科目ごとに設定されている単位数が違います。単位制とは、科目ごとの修得単位を積み重ねていくシステムのことです。ほとんどの通信制高校は「単位制」をとっています。
一方、多くの全日制高校で採用している「学年制」は、単位制の一種で、いわば「学年で区切られた単位制」です。学年ごとに決められた科目の必要な単位を修得できなければ留年となります。
「単位制」には、学年という枠(区切り)はありません。必修科目以外は自分の関心や興味のある科目を履修し、卒業までに74単位以上を修得すればよいのです。単位制によって、通信制高校の在籍者は、それぞれに合った多様なライフスタイルが実現できます。
広域通信制高校と狭域通信制高校の違い
通信制高校は、入学できるエリアの違いで、広域通信制高校と狭域通信制高校の2つに分かれます。その違いは、概ね下表のとおりでが、端的にいえば、広域通信制高校の生徒募集対象は全国で、狭域通信制高校は学校があるエリアを対象に生徒を募集します。または、広域は私立(株式会社立、学校法人立)で単位制が多く、狭域は公立(都道府県立)で主に学年制になっています。
区分 | 広域通信制高校 | 狭域通信制高校 |
---|---|---|
定義 | 本校所在地を含め3都道府県以上の地域に在住する人が入学できる通信制高校 | 本校所在地、または本校所在地と隣接する1つの都道府県から入学できる通信制高校 |
運営者 | 株式会社立のほぼ全て 学校法人立の約6割 | 公立(都道府県立)のほぼ全て 学校法人立の約4割 |
カリキュラム | 単位制 | 学年制または単位制 |
卒業要件
通信制高校を卒業するためには次の要件(3年間在籍+74単位修得+特別活動30時間)を満たしている必要があります。
卒業要件 | 備考 | |
---|---|---|
在籍期間 (修業年数) | 3年以上 | 転編入の場合は前籍高校の在籍年数も加算 |
科目の修得単位 | 74単位以上 | 転編入の場合は前籍高校の修得単位も加算 |
特別活動 | 30時間以上 | ホームルームや入学式、始業式、クラブ活動など |
- 在籍期間が3年以上であること 通信制高校を卒業するためには、3年間の在籍期間(修業年数)を満たしている必要があります。全日制高校を中退して通信制高校へ入学する場合(転入学・編入学する場合)は、前籍高校での在籍期間を加算することができます。
-
科目の修得単位の合計が74単位以上であること
通信制高校では、前述のとおり
レポート → スクーリング → 単位認定試験
という流れを繰り返しながら科目の単位を修得し、積み重ねていきます。 そして、卒業するためには、74単位以上を修得する必要があります。 今風にいえば「ポイント制」のようなもので、74ポイントゲットしたら、卒業要件が満たされることになります。なお、高校を中退して通信制高校へ入学する場合(転入・編入する場合)は、前籍高校での修得単位を加算することができます。 - 特別活動に30単位時間以上の参加 特別活動とは、ホームルームや行事(入学式、卒業式など)、体育祭、体験学習、クラブ活動などのことです。これらの特別活動に3年間で30単位時間(1単位時間=50分)以上参加する必要があります。
※転・編入の場合、前籍校の出席日数や修得単位などを加算することができます。
通信制高校への入学時期
全日制高校や定時制高校の入学時期はおもに4月となっていますが、多くの通信制高校では、4月入学の他、10月入学→9月卒業というコースも設定されています。転編入については、私立系高校では年間を通して受付を行っている学校がほとんどです。現在の通信制高校への入学時期は、春入学・秋入学、転入学・編入学となっています。
また、広域通信制と呼ばれる高校は全国から入学が可能です。気に入った通信生高校へ入学するために、通信制高校の所在地に引っ越すなどの必要はありません。全国の特色のある通信制高校の中から、自分にあった高校を選ぶことが可能です。
通信制高校の学費
通信制高校の平均的な学費は、初年度は36万円程度(就学支援金制度を利用した場合は24万円程度)、2年次以降は33万円程度(就学支援金制度を利用した場合は21万円程度)です。学校によって、異なりますが、目安は次の表のとおりです。
※なお、就学支援金制度を利用した場合、授業料が1単位あたり最大4,812円補助されるので、年間約12万円(年間25単位の場合)が支給されます。ただし、年収約910万円未満世帯の生徒が対象です。
費目 | 費用 |
---|---|
入学金 | 31,000円(入学時のみ) |
授業料 | 216,000円(8,640円×25単位) |
施設費 | 34,000円(年間) |
教育諸費用 | 42,000円(年間) |
その他 | 38,000円(年間) |
通信制高校入学のメリット
通信制高校はいわば「開かれた学校」です。 時代的な要望に応えるべく、さまざまな人たちに対応できる柔軟性を持ち備えています。特に、通信による学習が中心になるため「必ずしも毎日通学する必要がない」こと、学年制ではなく単位制なので「留年がない」ことなどが、全日制高校や定時制高校にはない特徴であり、メリットといえるでしょう。
- ライフスタイルの幅が広がる 通信制高校は、全日制や定時制と比べて、通学する日数が圧倒的に少ないので、自分のための時間を多く持つことができます。仕事やアルバイト、習い事、芸能やスポーツのプロ活動をしながら学ぶことができます。また、大学進学を目指す人は受験専門の予備校に通って実戦力を養うこともできます。通信制高校を活用すれば、今の自分の生活環境や将来の目標にあわせて、あなたならではのライフスタイルの実現が可能になります。
- 留年がない 全日制高校や定時制高校は、通常「学年制」を採用しており、長期欠席、成績不振等の理由で、学年ごとに決められた科目の単位を修得できないと留年になってしまいます。一方、多くの通信制高校では「単位制」なので、必修科目以外は自分の関心や興味のある科目を履修し、卒業までに74単位を修得すればよいのです。
- 全国から入学が可能多くの通信制高校では「広域通信制」で運営されているので、全国の都道府県から入学することができます。そのため、自分に適した通信制高校を選びやすくなります。なお、広域通信制高校では、全国の各地にキャンパスや協力校、学習センターなどを開設しているので、普段は、ご自宅に近い通いやすい場所で学ぶことができます。
- 長期欠席、不登校者でも入学可能
全日制高校に進学する場合、内申書の関係で長期欠席や不登校は不利な要素になります。仮に全日制高校へ進学できてもそれまでの状況を考えると、3年間通うことへの不安もあると思います。一方、通信制高校では内申書が入学に影響することは、ほとんどありません。
また、週1回の通学や月に1~2回の通学など、自由に選ぶことができます。通信制高校なら、通学に対する不安も緩和され、マイペースでこなしていくこともできると思います。最近では、不登校や引きこもりの経験を持つ生徒に対し、専門の先生による心のケアをしてくれるなど、親身に指導してくれる通信制高校も増えてきています。
近年の通信制高校の役割
戦後まもなく、勤労青年に高校教育の機会を提供する目的で制度化された通信制高校ですが、現在は、スタートラインも目指すゴールも違う多様な境遇にある生徒たちが、日々、通信制高校教職員の熱心な指導のもと学んでいます。通信制高校では、レポートとスクーリングを中心とし、学習時間や時期、方法等を自ら選択して自分のペースで学びますが、独学では困難な生徒のために、サポート施設(サポート校など)との提携したり、全日型(週5日通学)の運営を行う学校も増えてきています。
時代とともに通信制高校の運営や教育活動の在り方の多様化が進み、一人一人に寄り添った指導や支援を行うことにより、生徒が将来社会へ出たときに生き抜く力を身に付け、自らの未来を切り拓いていく手助けをすることこそが、今の時代に求められる通信制高校の姿であり、それは通信制高校の教職員の連帯と努力により成り立っているのです。
レポートの分からない問題を聞きに行っても、その他の悩みでも、先生方は温かく接してくださりとてもうれしかったです。…自分が持っていた『先生』のイメージが大きく変わりました。
通信制はあせらず、休まず、あきらめずの精神で、何事も自分のペースで取り組むことができます。また、人と比べず、自分が本当にやりたいと思ったことを全力で応援し、しっかりと支えてくださる先生方がいらっしゃいます。そして、ありのままの私を受け止めてくれる友人にも多く出会いました。